モリブロ

ここ最近はよく悩んでいる。

 「お前いつまでそんな感じなんだよ」

 私の息子のおじさんにあたる、つまり私の弟が、寝室で甥に向かって言っていた。息子はまだ3歳になったばかりだから、そのフレーズに込められた皮肉や含みを理解することなく無邪気に笑っていた。

 薄々感づいていたのだけれど、やはり私の息子は発達が遅いのかもしれない。だって3歳にもなるのにまだまともに会話した人は私を含めて誰一人としていないのだから、そうも思う。そうも思うのだろうけれど、いまだに誰もそれを口にしない。それを口にしてしまっては事実としてそれが決定付けられるような、なにか息子の可能性を閉ざしてしまうのではないかという不穏なガスが親族中に充満していた。

 息子の側に立つと惨めになる気がした。私が息子の側に立つ、ということはすなわち、それは息子を俯瞰してみることを意味する。小さな息子と私はほとんど一体で、側に立つという行為自体、一つの個体を成しているということの否定に変わりないのだ。

 しかしながら、いつになるのだろう、息子の側に立つのは。私だけは惨めに思ってはいけない。あなたが成長しようとしなかろうと、私は一人の人としてあなたを認識しているのだけれど、そうなると私は扉一枚隔てた弟にどのような態度を取ればいいのだろう。怒って然るべきか、はたまた蔑むべきか。これが何の感情か知らないけれど、弟が帰ったあと息子を抱いて、2,3滴涙が出た。そのあとにやるべきことも、泣いて誰かに慰めてもらうこともないのであれば、涙はこれ以上出なかった。