モリブロ

ここ最近はよく悩んでいる。

終わった人間

 「俺はもう終わった人間だから」というのは彼の口癖。ことあるごとに言うのだけれど、だったら死ねばいいのにと思う。口には出したことがない。彼がその言葉を忌み嫌っているような、欲しているような気がするから。

 彼と会うのは1週間ぶりくらいかもしれないし、あるいは2週間、1か月経っているかもしれないが、よくわからなかった。時々LINEにメッセージが入って、なんとも薄っぺらな哀愁をアピールしてくるのだが、こういう人間を観察したいと思って付き合ってやっている。彼はなにか私に好意を抱いているような気がするのだが、それを転がすことも悪趣味ながら興がある。

 「人生に期待することがない。生まれた時がピークで、そこから下っている気がする。こんなに終わった人生になるとわかっていたなら、好き勝手やってやればよかった。そこらにいる女に声を掛ければよかったし、いや、生易しいか。まあいいんだ。終わっているからって自暴自棄になるほど俺は弱くないし、でも、この絶望に反発するほど強くはないから…。いや、仕事がうまくいかないから、それだけだ。何かにつけて考えすぎて喋りすぎるのは俺の悪い癖だ。いや、俺の、というか人間みんなそうで、俺のが特別なんてことはない。終わっている人間は陳腐でつまらない、そんなことで悩む。終わっている。こんな話、ごめんね。本当にごめん。」

 申し訳なさそうに話しているけれど、労ってほしそうな欲が見え隠れしている。自分のことを分析しているようで、いま一歩足りていない。でもきっと本当に限界なんだと思った。話す途中途中で水を飲んでいて、飲んだ水が眼に溜まるみたいに涙ぐんでいる。氷だけが残ったコップの下には雫が滴って底面と同じ輪っかができている。詰めて彼を削るのもいいのだけれど、おもちゃが壊れることは本意ではないので、優しい言葉をかけて労う。サービスを与えることはこちらも快い。

 「大丈夫だよ。あなたはそういう感じで。終わっている人間はいくらでもいるのだけれど、そこまで気が回る人は二人といないんじゃないかな。私もいずれ終わった人間になるのだろうけれど、それが本当に怖くて。あなたみたいに終わった人間なのに、私を喜ばせてくれる、生き証人みたいな人だね。もう少し、耐えなきゃいけないね。」

 わかりやすく肩を落としながら、ついに目から涙があふれた。楽しいね。